近年のサウナブームで、サウナの持つ様々な健康・美容効果や「ととのう」感覚が注目を集めており、本格派フィンランド式サウナ施設の新設も相次いでいますが、密かに次のブームとして現在注目を集めつつあるのがロシア式サウナ「バーニャ」。
そんなロシア式サウナ「バーニャ」ブームの火付け人でもある、バーニャジャパン代表の根畑陽一さんに【ロシア式サウナ「バーニャ」の魅力とマインドフルネス】をテーマにお話を伺いました。
海外赴任中の運命的なバーニャとの出会い。他のサウナにはないバーニャの魅力
編集部:「元々ロシアという国や、バーニャに興味を持ったきっかけはありますか?」
根畑さん:「約10年間商社に勤めていた際、駐在員としてロシアに滞在中に『サウナ接待』を受けた際に衝撃を受けたのがきっかけですかね。サウナやウィスキング(白樺の枝などを用いたマッサージ)の気持ち良さはもちろんですが、サウナを楽しんだ後にみんなでウォッカを片手に会話を楽しんだり、そんな体験が1つの施設内で完結できる。
当時日本ではサウナブームが始まった頃だったので、いつか日本にもこういう体験・文化を広げたいと思い、駐在中にウィスキングのワークショップに参加し、体や健康に関する知識、ウィスキングの方法などをロシア語で現地で学び、今に至ります。」
編集部:「サウナ接待、確かに日本ではあまり馴染みがないかも・・・!それになかなかロシア語で現地でウィスキングを学ぶ日本人って他に聞いたことがありません!!日本で多い『ドライサウナ』、最近増えてきた『フィンランド式サウナ』と、ロシア式サウナ『バーニャ』の違いはありますか?」
根畑さん:「日本の銭湯などでよく見かける『ドライサウナ』は90〜100℃と高温で、湿度が少ないのが特徴です。それに対して、『フィンランド式サウナ』はドライサウナに比べて室温が低いものの、サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる『ロウリュ』で、じっくりと芯から体を温められる、ウェットサウナであることが特徴です。
『バーニャ』もロウリュのあるウェットサウナである部分はフィンランド式と似ていますが、40〜60℃とよりマイルドな室温で、15〜20分くらい入っていても大丈夫なくらい。空間というよりもサウナストーンが温められているので、フィンランド式よりも爽やかな湿度となっています。白樺やオークなどの枝(ヴィヒタ)を用いたウィスキングをセルフで行ったり、プロのウィスキング師から受けられる部分も魅力の1つですね。
あと、日本の『サ飯(サウナ後の食事)』はガッツリ系が多いですが、ロシアでは温かいお茶やフルーツ、野菜、ドライフルーツなど、体に優しいものが出されることが多いです。」
編集部:「なるほど!温度や湿度だけでなく、サ飯にまで違いがあるのですね!サウナブームで熱波師の勉強をされる方は最近増えてきましたが、それでも日本ではまだサウナを学べる場所というのは少ないと思います。実際にロシアでサウナやウィスキングを学んでみての感想はいかがでしたか?」
根畑さん:「ロシアのバーニャマスターからは『ウィスキングはただ葉っぱを振ったり、マッサージをするだけではなく、相手を瞑想に導く1つの手段でしかない。』と教わりました。葉っぱを体に当てる、蒸気を浴びることは、確かにインパクトを与えられるけれど、実際はそれは1つの要素でしかなくて、その後の会話、ヒーリング、食事、ヴィヒタの温度・香りなど、心と体、五感の感覚にまでトータルで目を向けられる、全ての体験がバーニャなんです。
当時商社に勤めていた頃は、事業計画・売上・商談などのビジネス的な部分しかやってこなかったので、心と体や癒しという分野の勉強は、自分にとって未知の領域でしたし、想像以上にディープな世界だなと思いました。笑」
編集部:「確かに、それはかなりディープな内容ですね・・・!」
根畑さん:「ちなみにロシアでは、サウナやウィスキングを学べるスクールやワークショップがあるだけでなく、その腕を披露するためのイベントも開催されています。」
編集部:「ここで質問が来ているのですが、日本ではどこでヴィヒタを購入できますか?都内近郊でセルフウィスキングができる施設はありますか?だそうです。笑」
根畑さん:「質問の内容がロシア人っぽいですね。笑
ヴィヒタの葉っぱ・産地によっても香りや作用、感触も全然違うのですが、僕自身はラトビアから輸入したオークの葉を使っています。日本国内だと長野と北海道で白樺のヴィヒタが作られています。今度はロシアからヴィヒタの輸入もできれば面白いなと思っています。
ちなみにロシアではヴィヒタを専門で作る人達がいて、ウィスキングとヴィヒタ作りは分業になっています。6月〜7月頃がヴェーニク・ヴィヒタが作られる時期ですが、サウナは冬場は本番。冬になると値段が跳ね上がり、冬の終わりの方になってくると質の良いヴィヒタは残らないんです。ウィスキングマスター達は1人で年間1000本くらいのヴィヒタを消費するので、夏場のうちに質の良いヴィヒタを確保しています。
都内近郊でセルフウィスキングができる場所に関してですが、貸切が可能な場所であれば恐らく問題ないかと思います。あとは日本で1番フィンランドの本格的サウナに近い、長野県・野尻湖にあるTHE SAUNAも大丈夫だと思います。僕自身は上野にあるサウナ&カプセルホテル北欧でセルフウィスキングをしている人を実際に見たことがあります。笑」
編集部:「都内で貸切サウナだと、錦糸町にある屋上ルーフトップのSAUNA GARDEN錦糸町とか、神楽坂にあるSOLO SAUNA tuneなんかも良さそうですね!」
根畑さん:「確かに!ちなみにセルフウィスキングする際の注意事項としては、サウナのストーブに葉っぱが触れると焦げた匂いがするので、ストーブには触れないようにすることと、ウィスキング後は葉っぱが飛び散るので、後片付けを忘れないようにしましょう。」
日本人として初めて参加!ロシアの「バーニャフェス」での体験
編集部:「そういえば先日、根畑さんはロシアで行われたバーニャフェスに日本人として初めて参加したと伺いましたが、いかがでしたか?」
根畑さん:「先日参加した『バーニャフェス』というのは、ロシア中のウィスキングマスターが集まる、ウィスキングの全国大会なので、基本的には各地域の予選を勝ち抜いた方々が出場する大会。僕は予選から勝ち抜いたわけではなく、師匠のウィスキングマスターとの繋がりでゲスト出演させて頂きました。バーニャフェスに参加する日本人は誰もおらず、しかもウィスキングも行うということで、皆さん温かく迎えてくれました。」
編集部:「普段行うウィスキングと、大会でのウィスキングに違いはありましたか?」
根畑さん:「普段ウィスキングというのは、密室で1体1で行うことが多いですが、バーニャフェスでは一部がガラス張りになったサウナの中で、大勢の観客の前でウィスキングを行うので、受けている側の気持ち良さというよりも、パフォーマンス的な要素が大きかったですね。緊張はしましたが、僕は元々ダンスなどで人前でパフォーマンスを披露するのが好きだったので、個人的にはすごく楽しかったです。
あとはパフォーマンスだけでなく、『どんなことを意識してウィスキングを行ったか?』というテーマも審査のポイントでした。例えば、『強張りが強いので、リラックスさせたり、エネルギーを通す』とか『前半はゆっくり、徐々にリズミカルに激しく盛り上げる』みたいな。ウィスキングを行う人によって全然違うので、そういう視点からウィスキングを見るというのも面白かったですし、僕自身もとても勉強になりました。」
アーユルヴェーダや世界中のヒーリングを取り入れる、癒しだけではないバーニャの予防医学的側面
編集部:「根畑さんはバーニャやウィスキング以外にも、アーユルヴェーダを学んだり、シンギングボウルを取り入れたりされているようですが、何か意識されていることはありますか?」
根畑さん:「ロシアのウィスキングマスター達は、バーニャの知識やウィスキングの技術を磨くことはもちろんですが、心理学やアーユルヴェーダなど、心と身体の仕組みを学んだり、世界中の癒しを取り入れ始めていました。国境が違っても、ちゃんと施術すれば、どんな国の人にでもリラクゼーション体験を与えることができると考えていました。
ロシアのウィスキングマスターからは『ウィスキングする時は、相手が天から生まれた赤ちゃんのように扱いなさい。』とも教わったので、1人1人と接して、その人の体や心、エネルギーの状態を見てウィスキングすることも大切にしています。
普段抱えているストレスは、仕事や日常生活のどこかで出てくると思います。それに、こわばっている、力んでいるのは自分に自信がなかったり、弱い部分を隠すために強く見せていることの現れだったり、表裏一体なんですよね。そこから相手のバックグラウンド(生活・過去)にも想いを馳せて考えると、世の中本当は悪い人はいないんじゃないかな?と思うこともあります。
あとは、アーユルヴェーダ的な視点から、体のバランスをとる施術も心がけていて、体の大きい人・小さい人、エネルギッシュな人・気力の少ない人によってもやり方は変えるようにしています。バーニャには火・水・風・土・木といった自然のエネルギーの元素が含まれていて、ウィスキングの際に葉っぱを体に当てることで、バーニャ内に漂うフィトンチッド(樹木の芳香成分)による香りも楽しめるので、まさに究極の森林浴。人間の体は狩猟時代からほとんど大きく変わっていないとも言われるので、現代人をちょっと自然の中に戻す1つの手段としてもウィスキングは良いと思います。
最近はウィスキングした後に相手を水上に浮かせるようにしていて。呼吸に集中して、お母さんのお腹の中のような浮いている感覚になるので、その後シンキングボウルの音色を聴かせてヒーリングすると、その後はしばらくぼーっとしてしまう人が多いんです。現在はヘッドマッサージも勉強中で、ウィスキング後に取り入れたいと思っています。」
編集部:「それはものすごく気持ち良さそう!そしてバランスをとるという意味では、まさに『ホリスティック』ですね!」
根畑さん:「そうなんです!ただ、サウナの中でウィスキングを行うのは結構体力を使うので、1日5〜6人が限度で、それ以上もできますが、自分自身が無理してまで行うのは意に反してしまうので、していません。
バーニャには予防医学的な側面もあって。最近の医療は、西洋医学に傾注し過ぎた『対処療法的なアプローチ』になっていて、そのほうが医者も医療業界も儲かるけど、本当はもっと大事なのは、そうならないように心身のバランスをとって、予防医学的なアプローチすることだと思っています。」
サウナで「ととのう」だけでなく、日常的にマインドフルネスな時間を持つことの重要性
編集部:「今回は【バーニャとマインドフルネス】をテーマにしているわけですが、サウナの「ととのう」感覚がマインドフルネスに結びつくのはもちろんですが、普段から生活の中で何か「マインドフルネス」でいられるために気をつけていることはありますか?」
根畑さん:「『マインドフルネス=今の自分の意識が、今やっていることに集中している状態。過去も未来もなく、今の心や体の状態に目がいくこと』だと思っていて。今目の前で起こっていること、ご飯を食べる時や太陽の光に当たった時などの体の感覚・香り・味覚などより、頭は常に他のことを考えがち。日々忙しい人ほどマインドフルネスになる時間を持つことで、生産性も高まると思います。
僕自身は瞑想、運動、寝る前にスマホやブルーライトを避けることを習慣にしていて、終わった後は頭がスッキリします。過去に10日間のヴィバッサナー瞑想の合宿にも参加したこともありますが、あれは修行でしたね。笑
ロシアのバーニャマスターからも『ウィスキングを学ぶためには自分自身をよく知らなくてはならない。』と言われたことがあって、自分自身をよく知って、ヴァーニャやウィスキングの良さを体感しなければ、相手を気持ちよくしたり、癒しを与えることはできないと思うので、そういう意味でもマインドフルネスな時間は大切ですね。
逆に、マインドフルネスでいるために、何か気をつけていることはありますか?」
編集部:「私もなるべくできる時は朝瞑想するようにしてますが、毎日はできていないかな。笑
ただ、自分が興奮している時は呼吸が浅くなったり、不安に思っていることがあると体が重かったり、イライラしていると体も表情もこわばったり、体に症状として現れるので、そういったサインに気づいたら深呼吸をしたり、バランスをとることを心がけています。
現代人は忙しい上に、様々な刺激・情報に溢れているので、余計自分自身の感覚に目を向けにくい方が多いと思うので、自分自身を客観的に見て、バランスをとることで、多少の波があっても心にゆとりも生まれて、レジリエンスも高まる気がします。」
ロシア式サウナ「バーニャ」ブームの火付け人が、その先に見据えるビジョンとは?
編集部:「ここまでバーニャや心身のコンディショニング、マインドフルネスなどのお話をたくさんして頂きましたが、バーニャを通して、根畑さんの今後の展望・ビジョンなどはありますか?」
根畑さん:「今年会社を設立して、ロシア製テントバーニャ「Terma」を輸入販売を開始したばかりで。キャンプ場や川辺、自宅の庭・屋上など、火を焚いても大丈夫な場所であればどこでも本格バーニャを楽しめて、セルフウィスキングも体験することができます。大体20分くらいで組み立てて、薪に火を入れて40分くらいでちょうど良い温度になります。
直近だと、11月6日〜7日に開催されるアウフグースフェスに自身が輸入販売しているロシア製テントバーニャ「Terma」を出展し、ウィスキングも行う予定です。
今後はロシアにあるサウナの知識やヒーリングの知恵を日本にも広げたいと思っていて、ロシアのバーニャマスターが行なっているようなオンラインセミナーを日本語で行うべく、現在準備を進めているところです。ただ座学だけではなく、実際にウィスキングの葉っぱを振る練習・フィードバックなどもカリキュラムの1つとして考えています。
また、サウナを知らない人が気持ちよさを知って、色んなサウナ施設に行くようになって、熱波師などを目指すような人が出てきて、ウィスキングはさらにその先にあると思っていて。将来的な目標としては、都内近郊から1時間以内の圏内で、自分自身の心や身体を見つめ直すきっかけになるような『ウィスキング専門のバーニャ施設』を作れたら最高だなと思います。
日本人は『ロシア=寒い、プーチン、怖い、北方領土』のようなネガティブな印象も強いかもしれませんが、実際現地の人たちは温かいし、バーニャという素晴らしい文化もあるので、多くの人にもっとバーニャやロシアの良さを知ってもらうきっかけを作りたいです。」
編集部:「素敵なお話をありがとうございます!バーニャやウィスキングも体験してみたくなりましたし、今後の根畑さんのご活躍から目が離せません!」
※こちらの記事は、2021年10月3日に開催したインスタライブを元に執筆しております。アーカイブはこちらよりご覧頂けます。
PROFILE
根畑陽一(Yoichi Nebata)
BANYA JAPAN CEO
1987年生まれ。石川県出身。神戸大学経営学部卒。
三井物産に勤務していた頃、4年間ロシアに駐在。ロシアのサウナ、バーニャに魅せられて、本場のマスター達からウィスキングを習得。2021年3月、ロシア製テントバーニャ「Terma」を輸入販売するバーニャジャパン株式会社を設立。2021年7月、モスクワで開催されたバーニャフェスのウィスキングロシア全国大会にて、日本人として初めてウィスキングを披露。ロシアのバーニャ文化・ウィスキングを日本に広めるために活動中。
Web site:https://banyajapan.com/
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